心理療法の一つに「論理療法」というものがあります。比較的わかりやすいし、不幸感にさいなまれてしまいがちな人、不安な日常生活の対応に応用できそうなので、ご紹介します。
基本的な考え方 人の神経症的行動は非論理的な考えの人間のものである。ならば非論理的な考えを論理的な考え方に変えれば、行動も変わるはずである。 |
これを言いかえると、
人の悩みは、誤った思い込みや信念から生まれるものである。ならば考え方を正すことによって幸せになることができる。 |
つまりは「ものは考えよう」ということです。
〔キーワード〕は
- 「ビリーフ」 「思い込み=信念」のこと
「ラショナル ビリーフ」 論理的に正しい、望ましいビリーフのこと
「イラショナル ビリーフ」 非論理的で、望ましくないビリーフのこと
「悩み、不幸」は、イラショナルなビリーフによる考え方から生まれるもの
考え方を正すことによって、心の苦しみから開放され、前向きの人生を送れるようになれる という理論
「ABCDE理論」〜イラショナルビリーフの打ち破り方のモデル
A (Activating できごと) ある事が起こった。
B (Belief system 考え方、) それを大変まずい恐ろしいことと考えた
C (Consequence 結果の感情) 不幸な気持ちになって悩んだ。
D (Dispute 反論) 「それはイラショナルビリーフである」と考えを訂正した。
E (Effect 効果) そうしたら、悩みが消えた。
~ イラショナルビリーフにおちいりやすい思考パターン ~
人を不幸にしやすい思考パターです! 私たちは、わりとこんな思考に落ち込んでいませんか? まずは、このことに気づきましょう
1、「べき」思考 (~でなければならない)
・・柔軟性を失った、「頑固者」タイプ。「~は~であるべきだ、すべきだ!」というビリーフにがんじがらめになってしまうこと。
例、「女は家庭を守るべきだ。」、「お茶くみは女性が行うべきだ。」
2、「どうせ」思考 ( どうせ ~ なんか・・・)
・・いわゆる「マイナス思考」。
はじめから諦め思考なので可能性はゼロです!「どうせ、私なんかやったってダメだ」という、将来への可能性を自ら打ち消すもの。
例、「どうせ、ぼくは太っているから、愛してくれる女性なんていないさ。」
「どうせわたしは兄(弟姉妹)より可愛がられていない。」
「どうせ、おまえみたいなバカは、そんなこと、できっこないよ。」
3、「過度の一般化」( オーバー ゼネラリゼイション)
・・ひとつのことから、全てを決め付ける考え方。画一的な思考パターンなので思考の幅が狭まってしまう。
例、「今の若いモンはみんな礼儀知らずだ。」
「おまえは何をやってもダメだね。」
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考え方を是正する・・・イラショナルビリーフからの脱却を!
「手 順」
① 悩みや不幸な気持ちになったら、自分の考えは論理的に正しいかどうかを検討する。「それ、ホントかな?」
- 非論理的なビリーフ(思い込み)がみつかったら、心の中の文章を正しい文章に書きかえてみる。
悩みから抜け出す考え方のチェックポイント ① 事実に基いているか ② 論理的に正しいか (考え方に思い込みや誤りはないか) ③ 人を幸福にするものかどうか。 いくら、筋の通った立派な考え方でも、生活がなんとなく憂うつで楽しくないときは、考え方のどこかにイラショナル(不合理)なものがあるかもしれない、と考えたほうがよい。 |
- イラショナルビリーフに気づいて、文章を書き換えることで、不幸な感情から抜け出し、前向きの感情に変化する。
* 不幸の二つの要素
○家族や友人との死別や職を失った悲しみ、失望、残念な気持ちなど。
人として自然な、理にかなった「ラショナルな不幸感」 =当然のもの
❌ 要求や欲求、主張が達成できず、極度の怒りやいらだち、自分はだめだという自己卑下、絶望的な憂うつ、不安など、気を動転させ理性を失った「イラショナルな不幸感」 ・・・否定すべき感情
例:「大切な恋人に去られてしまった。」時に・・・・
(1)残念でとても悲しい! でも、人生が終わったわけでない。また新しい愛に出会うかもしれない。当面、仕事や趣味に打ち込もう。 =○(好ましい思考)
- 悲しい、切ない、もう生きる望みもない、仕事なんか手につかない。もう人生おしまいだ・・
=×(そうとは限らないからである)
~ ABCDE理論に基いて文章を書き換える例 ~
A ある生徒(子ども)が教師(親)の注意に対して「うるせーな!」と反抗的態度をとった。
B 生徒(子ども)は教師(親)の言うことに素直にしたがうべきで、そんな言葉づかいは、見過ごすべきではない。また、大人の権威を失ってはいけない。ここできちんと指導すべきである。そうしないときっとつけあがるにちがいない。
C その場ですぐに反省させ謝罪させようとして、厳しくしかり、また反抗されたので思わず殴ってしまった。とても気まずくて、また、さらに生徒(子ども)が反抗的になったらどうしようかと、不安がつのる。今後のことを考えるとひどく恐ろしくもあり、憂うつである。
- このようなことが繰り返されるということは不幸なことである。そこでBの考えを検討しなおしてみる。
D(反論)「生徒(子ども)が反抗したからといって、たまたま、きげんが悪かったり、腹の立つことがあったのかもしれない。素直な気持ちでいられない時もあるだろう。今、この場で指導しなければならないという緊急性もなく、明日落ち着いたときに話してみてもよかろう。今日のことは残念であり不愉快ではあったが、それで教師(親)の立場がなくなるわけでもあるまい。自分も若い時はこんなことはよくあった。その子がまったく悪い子だとは限らない。
E(効果) その場では無理に指導しないで、次の日廊下で会った時、「昨日はずいぶんきげんが悪かったね。何かあったの?」とさりげなく尋ねた。すると「うん、実は・・・・」と悩み事を打ち明けてくれた。かえって今まで以上に信頼関係が深まった。
このように、一度立ち止まって、思考を見直してみると、意外と別の対応やアイデア、良好な結末が生まれたりするものである。
よくありがちなイラショナル ビリーフ
〜 論理療法の立場から不幸を招きやすいビリーフ例を紹介します
- 何をするにも、周囲の同意は必要だ
自分の本当にしたいこと(本音)に忠実に生きるべき。親や家族や周囲の人がどう思うか、他人の価値観に惑わされず、しっかり自立するべき。同意があれば「それにこしたことはない」けれど。 - いつでも完璧な行動をしなくてはならない。
完璧主義者は、失敗すると「自分という人間はダメだ」というイラショナルビリーフにおちいりやすい。「とにかくやること、なるべく上手にやろう」ということを目標に。たとえ失敗しても本来的な人間の価値とは無関係!完璧にやれれば「それにこしたことはない。」 - 他人に対して、あれ○○だ、とかのレッテル貼り(一般化)をしてしまうこと。
だれでも失敗はあるもの。自分にしても他人にしても、失敗や短所は今後の教訓程度に受け止めること。他人の行為の良し悪しは判定できるが、その人としての価値ははかれないもの。「罪を憎んで人を憎まず」 - 思い通りにならないと、頭にくるのは当然だ
ウマくいかないときは決然としてその改善に取り組むべきで、腹を立てる心の動きには断固として、反撃を加えること。ヤケを起こさず、冷静に考えることが大切。 - 不幸は外から来るものだ。
不幸は外からやってくるのではなく、自分の誤った考えと、ゆがんだ心の内の「文章」から作り出されるものである。考えを訂正することで幸、不幸も変わってくる。 - 何か危険なことが起こりそうなときは心配になって当然
心配に心を奪われ、考える力が乱されてしまうことは誤り。勇気を出して不安を引き起こす原因をつきとめて、合理的な対処をしていくことが大切。 - 人生の困難は立ち向かうよりは、無理せず避けるほうが楽!
自分の本当の人生の目標をみつけたら、それに向かって努力しよう。それで実りをえれば、結局はその方が「楽」なのだ。自堕落な生活は結局は実りも少なく、退歩でしかない。「おっくう」という感情は案外人生の大敵。 - 人にはそれぞれの過去があるのだから、今の状況は仕方ない。
過去が~だったから、今の自分は変えようがない、という考えは断固すてること。よりよい未来にむけて現在の状況を改善していく努力が大切。 - 自分の周りの人々は私の欲するとおりであるべきだ
自分が独立した人格であると同じように、子ども、家族や、他人もまた独立した人間であり、自分の思うように考えたり動いたりするものではない。その事実をきちんと受け止めておくべきである。 - 何もしないで〔楽〕をして暮らすことができるなら、それにこしたことはない。
気楽に楽しく暮らすことが最大の幸福である、という考えには反論すること。何か熱中できるもの(人)をみつけるようにすること。何もしないことは「生きる意味」を作っていくことを放棄することにほかならない。生きがいとは、怠惰と戦い、率先して活動する自己へと方向転換し、日々の行動の積み重ねによって生まれてくるものである。
その他の例
社会生活において
- 人の頼みを断ってはいけない、親切でなければいけない
拒否のない人生はない、ときにはきちんとノーといえる自分でなければならない。また、拒否された人は、それを残念に思ったり、うらんではいけない。相手にも拒否する権利と自由があるのである。お互いさまである。
ただし、断り方にも人間関係を傷つけないテクニックがあるので、身に付けたほうがよい。 - フラストレーションはよくないものだ
人生はフラストレーションのかたまりである。「世の中は自分のためにあるのではない、」と覚悟をきめ、フラストレーションに立ち向かう強さと柔軟性がほしい。「苦労はないにこしたことはない。」程度に思うこと。 - 人生なんでも「いい線」をいかねばならない
「人に負けるべきではない」というビリーフに固執すると生き方がいつも必死となる。A.S.ニイルの言葉「神経症的な大学教授より、幸福な煙突掃除人になるほうがずっとよい。」 人生を結果で考えず、プロセスを楽しむゆとりがほしい。
学習生活において
- 自主性、自発性を絶対的に尊重すべきだ
スムーズに、好ましい社会生活を送るためには、ある程度の禁止・命令は必要である。「禁止・命令は権威的で悪」というのは短絡的。現実原則をきちんと教えることは必要なことである。子どものしつけなど。 - 暗記式の勉強はまちがいだ。
暗記はあらゆる勉強の前提条件といえる。暗記する価値のあることを全部知り尽くしたところに創造的思考が育つ。 - 学歴のない人間は人生で高望みをすべきではない。
学校での成績と、能力の高低とは別物。また社会的な適応能力も別のものである。自分の長所を発見し「私もまんざらではないなあ。」と思ってよい。高望みしたほうがよいところでは高望みしてよいのである。
家庭生活において
- 家庭は憩いの場であるべきだ。
「家庭は憩いの場であるにこしたことはない。むしろ第二の職場である。」と考えたほうが事実に即している。家庭生活には義務と責任が伴うもの。妻(夫)は母(父)ではないのである。 - 長男夫婦は親と同居すべきだ。
「できたら、それにこしたことはない。」程度に考えるべき。同居がむしろ不幸な結果になることも多い。 - 配偶者はやさしくなければならない。
人間関係に二種類ある。個人の感情交流が主の関係と、役割と役割が主の関係。スムーズな結婚生活はこの二つがほどほどに共存しているとき。配偶者と言えども別個の人格である。自分の期待通りに動くとは限らない。「配偶者は冷たいものである。やさしくしてもらえれば、もうけものである」と初めから覚悟しておいたほうが得。 - 嫁は舅・姑の娘である。
・姑の立場「実の娘のような期待をしても無理。嫁は息子のガールフレンドであり、私の友達であるが、娘ではない。」と決めておいたほうがよい。
・嫁の立場「姑に情が湧かないのは自分が薄情だから」と苦しむ場合がある。しかし、おしめを替えてもらった間柄でもなし、無理に情をもとうとしてもだめなもの。むしろ形式的な付き合いを繰り返すうちに、情が湧いてくるもの。「姑は夫の母であり他人だ。」と適切な距離をおいたほうがよい。
その他
転職はすべきでない。降格された人間はダメ人間である。いばるべきではない。人に認められようとすべきではない。 などなど・・・
身近にイラショナル・ビリーフはありませんか?
学校生活で 生 徒
- どうせ、おれはバカだから勉強しても意味ない。
- どうせ、受検しても受からない。
- どうせ、ぼくは悪い子だから、ちゃんとできない。
- 私は何もいいところがない。
- どうせ先生に言ったって分かってくれない。
- 根暗な人は、きらわれてもしかたない。
教 師
- 読書ができない人間は、人間の底が浅い。
- スポーツができない人は、人間の底が浅い。
- 一年生のうちからこんな生活態度では、この先大変なことになる。
- 教師は(親は)子どもに対して常に立派でなければならない。なめられてはいけない。
- こどもは自由に伸び伸びと育てるべきで、禁止や指示をしてはいけない。
- 今時の親は・・・ ・しつけは親の責任であり、学校はどうしようもない。
- 服装の乱れは心の乱れで、悪い子の証拠だ。
- 茶髪(ピアス)などは不良のすることだ。
- 大学進学率が高いので良い高校だ。
- 学級を持たされない教師は、力がない。
家庭生活で
- あの高校はだめな学校だ。生徒はレベルが低い。
- どうせ、母(父)は分かってくれない。どうせ、夫(妻)にいったって分からない。
- どうせ、おまえなんかにできはしないよ。
- 今時の教師は・・・
- 志望校に入れなかった我が子は、無能な人間だ。
- 高校入試を失敗することは、大変恥ずかしいことである。
- 母の愛は海より深い尊いものである。
- 高校は3年で卒業すべきである。留年するものはダメな人間である。
- いまどき、高校はでておかねばならない。中卒はダメな人間である。
- 子どもの教育は母親が中心となるべきだ。
- 父親はたくましくなければならない。子どもの教育にはゲンコツが必要だ。
・ 良き夫と子どもに恵まれることが女の幸せだ。
- こどもは親の言うことに口答えすべきではない。
- 家庭は自分にとって、憩いの場でなければならない。
- 親の期待には応えなければならない。
- 妻(夫)は常に私を愛するべきである。
- 学校に呼び出されることは恥である。 ・学校内のことは学校で指導すべきだ。
- 家でこんなにだらしないのなら、外ではもっとひどいに違いない。
- 親に愛されなかった自分は、だめな人間である。
生活一般
・ 自分は回りの人々から好かれる存在でなければならない。
- どうせ、あの上司には分かってもらえない。
- どうせ、ぼくはデブだからもてるわけがない。
- 自分は出世できないからこれ以上幸せになれない。
- 男なんて、みんなオオカミだ。 ・女なんて、みんなウソつきだ。
- 今時の若いもんは・・・ ・人生なんてはかないもんさ。
- 信頼を裏切られた、もう二度と人を信用できない。
- 人間はみんなひとりぽっちさ。 ・世の中は弱肉強食で、勝つか負けるかだ。
- 好きな人にふられた。もう人生おしまいだ。
- 世の中、金がすべてだ。 ・人生、愛がすべてだ。
- こんな失敗をしてしまった。もう人生取り返しがつかない。
- 精神病院に入院した私は、もう人間失格だ。
- こんな世の中、何から何まで真っ暗闇だ。
- 女性はいつもやさしくあるべきだ。
- 男性は弱音を吐くべきではない。泣いてはいけない。
- 仕事はどんなことであれ、きちんとこなさなければならない。失敗は許されない。
- 幸せになるためには常にまじめにがんばるべきである。
- おおぜい友達を作るべきである。
- 家庭をもたなければ一人前ではない。
等々
教員なんかは非常にビリーフが固い職種だと感じます。それで、よけいな苦労をしていることも多いのでは?
ビリーフを見直すコツは
☆「絶対~とは限らないよネー」 ☆「~であれば、それにこしたことはない。」
「完璧でなくてもしかたないよ。」などと心の中で言い直してみるといいですよ。
☆ 少し、「常識はずれ」の部分もあって、あえて挑発的な例を挙げてみました。子どもも大人も、もう少し楽になるように、つまり余計なストレスを溜め込まないように、一度私たちが「当然、当たり前、常識・・・」と思っている考えも見直してみる必要があるように思いますが、いかがでしょう??????
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