【教育知識】「親業」の考え方〜「わたしメッセージ」等

『 親 業 』について

「親業」といいますが教師にも応用できる技法があります。現在、「教師業」という分野も開発され講習会がもたれているようです。要は、「説教よりは自分の感情を伝えたほうが気持ちが通じやすい」という考え方です。「I-message」という言い方で、TVの「すぱすぱ人間学」や「あるある大辞典」等で取り上げられていました。

1960年代、米国の「トマス・ゴードン」博士(臨床心理学者)により始まる。

*豊かな現代 = 家族がバラバラになりやすい時代 = 不安定な時代における「子育ての不安」

意識的な子どもとのコミュニケーションの努力が必要な時代

「訓練の目的」

A  親は理屈は分かっている。しかし、実際にはできない。

    「教育論は知っているけど、子育てはヘタ」という状態が多い。

B  ならば、親が頭で分かっていることをできるようにしよう」

体験学習を通して学ぶ活動が「親業訓練講座」日本では1980年に活動が始まる。

* 3つの柱 = 「聞く」「話す」「対立を解く」

  • 子どもの話を聞くための「能動的な聞き方」
  • 親の伝えたいことを語るための「わたしメッセージ」
  • 親子の対立を解くための「勝負なし法」

1.聞くこと 「能動的な聞き方」(積極的に聞く態度)=傾聴法と通じています。

 = コミュニケーションの基本

A 「相手が話したい時にはその話を聞き、自分が話したい時には語ればよい。」

  しかし、親は「子どもの話を聞くべき時に自分が話し、自分が語るべき時に自分を語っていない」ことが多い。= 親子の断絶 etc

*  聞くこと = 助けること  こどもが自分の悩みを話せると、自分の悩みは何であるかが整理できる。そして、自分で考えて解決策を探す力が育つ。

 受動的な聞き方 = 子どもが親に受け入れられている、と感じる接し方

  • だまって一緒にいる。②あいづちを打つ。③心の扉を開く。「どうしたの?」「話してくれる?」「お母さん、聞きたいんだけど…」

*さらに効果的な B 能動的な聞き方の3つの形 ……………………………………………

  • 子どもの言うことをくり返す ②子どもの言うことを親の言葉で言いかえる

3 子どもの気持ちをくむ

効 果

  • 子どもが親に理解されないでイライラすることがなくなる。
  • 親を良き理解者と感じ、心を開いて、いろいろ話すようになる。
  • 親に「愛されている」と感じる。親を好きになる。  

    4、言語能力が育つ。

5、自分で考える力がつく。              
6、自分の悩みを見つめ、克服する経験を積む。

7、子どもの気持ちがわかるので、親が安心できる。  など・・・・

2.話すこと「わたしメッセージ」= 親の伝えたいことを語るための方法

あなたメッセージ    A   =「あなた」が主語。あなたについて語る言葉  ❌好ましくないメッセージ

* 親がよく口にする12のパターン  本当は「親自身が困っている」という感情に気づいていない。

  • 命令・指示・強要

「もっと早く起きなさい。」「部屋はきれいにしておきなさい。」

  • 注意・脅迫

「今度悪さしたら、夕飯(小遣い…)あげないぞ!」

  • 訓戒・説教

「勉強はだれにとっても大切なこと。人間はいつだって勉強なんだよ。」

  • 忠告・解決策の提案

「もっと早くから計画的にテスト勉強したらいいじゃないか。」

  • 講義(教示や事実の提示)

「普通、中学生は学年数プラス1時間は勉強するもんだよ。」

  • 非難(判断・批判)

「おまえの考え方は幼稚だ。そんなの社会じゃ通用しないよ。」「悪い子だな。」

  • 賞賛・お世辞

「おまえは、やる気になればできる子なんだよ。」

  • あざけり・悪口

「おまえみたいな者にそんなことできるもんか。」「それほどバカとは思わなかった。」

  • 解釈・分析

「学校の悪口を言うのは、つまり自分がサボりたいからだろう。」

  • 激励・同情

「つらい気持ちは分かるけど、来年になれば、きっと楽しいことがあるよ。がんばろう。」

  • 質問・尋問

「こんな成績で大丈夫なの?」「どうして勉強しないの?」「だれがそんなこと教えた。」

  • ごまかし(注意を他へそらしたり、中止する)

「その話はまた後でしよう。」   「外で遊ぶにはいい天気だと思わないか。」

*これらに隠されたメッセージ(=子どもの感じ方)

  • 親の考えの押し付け = あなたはこうしなければならない。
  • 子どもの否定    = あなたは悪い子だ。だめな子だ。
  • ごまかし      = はっきりとは言わないけど、私はあなたをきらいになるよ。

 結果として →話をやめさせる ・防衛的にさせる ・反抗させる・劣等感を味わわせる・怒らせる・罪悪感を持たせる・自分は親に受け入れられていないと感じさせる・自分は自分の問題を解決できる力があると信頼されていないと思わせる。・自分は親に理解されていないと感じさせる・自分の感情は正しくないと感じさせる。

さえぎられたと感じる・欲求不満にさせる・親に関心を持たれていないと感じる、 など。 

例 (あなたは)おりこうね  (あなたは)えらいね (あなたは)早くしたくしなさい

(あなたは)そんなことしちゃだめだ(あなたは)思いやりを持ちなさい

(あなたは)友達と仲良くしなさい   

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わたしメッセージ  〜「わたし」を主語にした話し方    ○好ましいかたち

               

思いを伝えるには「わたし」を主語に語り自分の気持ち・感情を伝えること

* 自分の本当の感情に気づくのは難しいこと。普段から「訓練」が必要。

* 効果 ~ 気持ちを伝え、子どもに考えさせることによって、

小言が減った・子どもの主体性がぐんぐん育った・創造性が伸びていく

・家庭が明るくなった。・自分の気持ちに正直になった。

「3部構成のわたしメッセージ」~子どもの行動を受け入れられないとき。次の様な段階で。

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A 行動  ~ すると      例 「部屋の中でチャンバラごっこをされると」

B 影響  ~ だから       「ガラスや電灯が割れるんじゃないかと、」

C 感情 わたしは ~と感じる 
                  「お母さん(わたし)はすごく心配でハラハラするのよ。」

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*「あなたメッセージ」で「(おまえは)部屋の中で棒を振りまわしてはダメ!」というより効果的だという。

1、A 花ちゃんがいつまでも食事終わらないと

  B 片づけがおそくなっちゃって、

  C お母さんは休むのが遅くなるし、すごく困るのよ。」

      ×(あなたは)「いつまでテレビ見てるの! さっさと食べてしまいなさい!」

2、A  太郎が、「うるせー、」なんて乱暴な言葉を使うと、

  B お父さんは、おまえと冷静な気持ちで話ができないし、家の中が暗くなるので、

  C とってもつらいし、悲しいんだよ。」

 ×(おまえは)「なんだ、その態度は! 親にむかって!」

3、A あなたが遅くまで帰らないと

B 何か事故やトラブルがあったのではないかと心配になり

C すごく不安でつらいのよ、怖いのよ(さびしいのよ)。

    ×(あなたは)「なんでこんなに遅いの。もっと早く帰れないの!?」

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「肯定のわたしメッセージ」~ 喜びや感謝の気持ちを伝える

「 ~してくれてうれしかった。 すごく助かった。」と親も照れずにどんどん伝える努力を。

*「(おまえは)いい子だね。」という「ほめ言葉」は必ずしもいいものではない。

なぜなら、外部的な評価で子どもを「操作」するものであるから。「いい子か悪い子か」といつも大人の顔色をうかがうことにもなる。依存的で自主性は育たない。

「ほめる、しかる」 = 依存性を高めてしまう。

「肯定のわたしメッセージ」

=相手の気持ちを考えながら自主的に行動する気持ちが育つ。

例 1、「台所の洗い物してくれたんだね。今日はお母さん疲れていたから、とっても助かったわ。ありがとう。」

  2、「今日はお母さんの手伝いしてくれたんだってね。そんなに優しい気持ちを持っているなんて、お父さん、すごくうれしいよ。」  (「わたし」のうれしい気持ち・感謝の気持ちを伝える)

*「わたしメッセージ」で気持ちを伝えても反発される時 

そのときは「能動的な聞き方」でまず、じゅうぶん思いを聞いてあげること。(傾聴法を用います)その後でまた「わたしメッセージ」を伝えればよい。 

例、 保育園で。よしお君、お昼寝後、服も着替えずにウロウロ。他の子たちはおやつの準備をして待っている。

保母: よしお君が早くおやつの準備をしてくれないと、おやつが配れなくて先生仕事ができなくて困るのよ。それにほかのお友達も待っているし、すごくイライラするのよ。(わたしメッセージ)

よしお: 今、早くしようと思ったんだよ!(ぐずぐず・・・)  (反発)

保母:  そう、今しようと思ってたのね。           (能動的な聞き方)

よしお: うん、そうだよ。それにボク、トイレのスリッパそろえてたからおそくなっちゃったんだよ。

保母:  あら、スリッパそろえてたから遅れたの?        (能動的な聞き方) 

よしお: そうだよ。なのに先生、早く早くばっかし言ってさ・・・・

保母:  そうか。先生が理由をよく聞けば良かったのね。     (能動的な聞き方)

よしお: うん、そう。

        といいながら、すっきりした顔ですぐ準備ができた。

保母:  早く準備してくれて、先生うれしいわ。     (肯定のわたしメッセージ)

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3.対立を解く「勝負なし法」~ 親子の対立を解き、新たな解決法を考えさせていく。

「能動的な聞き方」を使ったり「わたしメッセージ」で気持ちを伝えたら、お互いの考えや感情があいいれず、対立がおこることもある。親子といえども、人間が異なれば対立があるのは当然。

問題はその対立をいかに解いていくか。

* 好ましくない親のパターン

A 勝者型の親

  賞罰を使って、子どもを支配しようとする。( ほめる、罰する )

 → 幼い子どもは親に依存しなければ生きていけないので言うことを聞く。

  • 「厳しい、強い親」から育つ子どものタイプ

  ① 内向的で親の言いなりタイプ

いじいじ、おどおどする子。べそべそとすぐ泣く子。子どもらしいのびのびしたところのない子。言われた通りにしかできない子。親の顔色をうかがう子。

  ② 負けず嫌い、反抗的で怒りっぽいタイプ

下の兄弟や、友達をいじめる子。ウソをつく子。意地悪な子。反抗的な子。ふてくされる子。

  • 子どもは自分の欲求を「悪いこと」と受け止め、押し殺す。

どちらにしても、親に不満をもち、自信がなくなり、自主性が育たない。

B 敗者型の親  ~言いなり型(子どものわがままは親が育てる)

   子どものダダ(泣きわめいたり、暴れたり)に「しようがないねえ」と負けてしまうタイプの親。心の底では「困った子だ」と思っていて、心底から子どもを受け入れられない。それが自然と子どもに伝わり「自分は愛されていない」と感じてしまう。

子ども=「泣いて騒げば、要求が通る」ことを学ぶ。

(逆に、親が泣いて勝つことを教えているとも言える。)

* 自分の要求ばかり主張し親の気持ちを考えない子は、 

→ 友達に対しても同じような態度でのぞむ。

→ 友達は親のように、思うようにならない。

→ すぐけんかになったり、いじめられたと思い込む。

→ 学校などの集団生活に適応できなくなる。

C 民主的な親

  いつもは「敗者型」で、ときどきガマンできなくなって「勝者型」になり、その後で、悪いことをした、と思いまた敗者型にもどる、という動揺型の親。

好ましい親子関係「勝負なし法」

* 親も子も、勝ったり負けたりしない = 親の欲求、子の欲求、共に満足できるような解決法を見つけよう

というもの。YesかNoかという二者択一ではなく両者の要求をなるべく両立させようという知恵を働かせる

ことです。

効 果 

・子どもなりに人々の中で生きていることを知る。

・自分も納得して行動することができる。

・ただ命令されるのでなく「どう思う?」「これでいいかな?」と尋ねられることで、「自分が大切にされている、人として尊重されていると感じる。

・自分の意見が通ると自信が持てる。

・どんなことでも言える、という安心感が子どもをとても自由にする。

・自分だけでなく、相手の欲求も大切にする習慣がつく。

・自分が参加して決めたことなので、やる気が出て、主体性や内的な規制力も育つ。

・人との対立を建設的に解決したという体験が自信となり、その後の対立や困難に負けなくなる力がつく。自分で乗り越える力がつく。

~ 6つの段階 ~

1、問題をはっきりさせる 

わたしメッセージで親の気持ちを伝える。→ 次に「能動的な聞き方」で気持ちを聞く。

親と子の欲求の対立をはっきりさせる。

2、いろいろな解決策を出させる 

「どうしたらいいかな?」と思いつく方法を何でも出させる。または提案する。

3、出た解決策を検討する 

 「これは、どうかな?」と一つ一つ検討する。お互い受け入れられないものは消す。

4、一番よい解決策を決める 

一つでも複数でも、修正してもよい。

5、実行方法を考えて、実行する 

まず、やってみて修正をいとわないこと。

6、実行した結果を見て検討する 

事例 「家族で外食しよう、というのに8歳の長女だけが反対」

  発端… 久しぶりに夫が在宅。家族みんなで夕食に行こうと提案した。

1、わたしも長男も次女も大賛成したが、長女が「早く寝たいし、見たいテレビがあるので、いやだ。」と言った。

2、長女とどうしたらいいか、考えられるだけ解決策を出してみた。

  • 全員食事に行かない。         ③ 長女だけが家に残る。
  • お母さんと長女だけが家に残る。

3、どの案がよいか、考えた (評価)

  • 他の子どもはどうしても行きたいという。
  • お母さんも、できれば行きたい。
  • 長女は「お母さんが食事を用意してくれれば、お風呂は自分で支度できるし一人で残れる、」と言う。

4、双方が納得する方法を決定

   今回は長女だけ家に残ることに決定。

5、実行に移す。

  みんなは出かける。 長女は「行ってらっしゃい」と、見送ってくれた。

6、結果の評価  = 全員満足した。

 9時過ぎに帰宅したとき、長女は「お帰りなさい」ときげんよく迎えてくれた。「少しは寂しかったけどー」とは言いながらも、きげんは悪くなく、食事の片付けもやっていてくれた。

わたし達も久しぶりに夫と外食できて楽しかった。次はみんなで行こう、と約束した。

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